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SAF=持続可能な航空燃料とは?【前編】

コラム

SAF=持続可能な航空燃料とは?【前編】

2023/03/22
様々な自然災害を引き起こし、生態系や農作物へ悪影響を及ぼしたりなど、気候変動による影響は多岐に渡ります。この気候変動は自然の要因と人為的な要因があり、後者は人間活動に伴う二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量の増加や森林破壊などがあります。

気候変動問題の解決に向けては世界中でアクションが進められており、近年では化石燃料の消費によるCO2排出量増加に対する対策が講じられています。その一つとして、飛行機のフライト時に排出されるCO2削減が指摘されており、「SAF」が注目を集めています。

今回はこの「SAF」について、前後編で詳しくみていきます。

(写真素材:photo AC)


SAFとは?

SAF(サフ)とは「Sustainable Aviation Fuel」の略で、「持続可能な航空燃料」を指します。

SAFの原料は主に植物や廃食油などで、従来使われてきた化石燃料と比較して、約80%の二酸化炭素排出量を軽減することができます。また、化石燃料と混合して使用することができるため、既存の航空機や給油設備などにそのまま使用できるという特徴を持ちます。

航空業界ではSAFの製造・利用を拡大することで、二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることが目指されています。また、国土交通省は国内航空会社で使用される燃料に占めるSAFの割合を、2030年までに10%に増加させることを目標に掲げています。

脱炭素社会を目指してさまざまな取り組みが行われている中、上記のような動きは世界各国で広がっています。2050年のSAF燃料の需要量は4.1億kl〜5.5億klと見込まれており、今後さらに需要の拡大が予想されます。

しかし、SAF燃料の普及率は非常に低く、2020年時点のSAF燃料供給量は6.3万klと世界全体のジェット燃料供給量のわずか0.03%と低水準で止まっています。現状、SAFの需要の供給が追い付いていません。


航空業界で導入が進められているわけ

気候変動に対する取り組みの一つである脱炭素化は、世界共通の目標であり、各国で取り組みが進められています。基本的に自国の目標に照らして各国でCO2排出の削減に取り組むことになっていますが、国別削減対策の枠組みになじまない分野の一つとして国際航空が挙げられます。

航空機が排出するCO2排出量は、世界全体のCO2排出量の2〜3%を占めると言われており、その合計は日本の総排出量を上回るほどです。

航空機の燃料に使われている化石燃料は、大量の二酸化炭素が排出されてしまいます。また、化石燃料は有限資源のため2070年頃には石油や天然ガスが枯渇する恐れがあるとされています。

上記のような懸念から、航空各社ではこれまで燃費の良い機体の採用やエンジン洗浄など、燃料の削減に取り組んできました。こうしたCO2排出軽減の取り組みのなかで、より排出量を削減するための手段としてSAFが注目されています。

SAFの原料は?

SAFの製造技術はまだ決定的なものはなく、さまざまな原料や製造方法が世界中で研究が進められている段階です。

現在、SAFの原料は主に、植物や藻類、廃材などのバイオマス由来原料や、飲食店や家庭などから排出される廃食用油、廃棄される動物の脂などです。

SAFの主な原料等
木質バイオマス等:米国にて商用化予定。我が国でも技術開発・大規模化に向けた検証を実施中
廃食油、廃獣脂、パーム油等:米国、フィンランドで商用プラントを運転中。商用としてSAFを供給した実績あり
都市ごみ・廃棄物等:米国で都市ごみ由来SAF製造プラントを建設中。我が国でも事業化に向けた検証を実施中
藻類等:日本で2030年頃の商用化に向けて技術開発・大規模化に向けた検証を実施中

木質系バイオマスや微細藻類、廃食油など植物由来のSAF燃料は、燃焼時に排出されるCO2は原料の植物が生育時に光合成で吸収したCO2であるため、実質的な排出量がゼロに近い状態になると考えられています。SAF燃料はCO2の総量を増加させないネットゼロの燃料ということができます。


また従来、航空機の燃料に使用されてきた化石燃料は、使用サイクルにおいて一方的に二酸化炭素を排出するのみでした。一方、SAFはリサイクルの観点からも優れており、廃食油を原料とする場合、通常は4割程度の再利用率を上げ、リサイクルの促進につなげることを可能とします。


SAFの製造方法は?

SAFには様々な原料があることを記しましたが、製造方法も様々あります。原料と製造プロセスの組み合わせは多岐に渡ります。

SAFには「ASTM D7566」という国際規格が定められており、世界最大の民間規格制定機関のASTM Internationaが策定しています。これによれば、7種類の製造方法が承認されていて、製造方法に応じて化石燃料との混合割合が定められています。


代替燃料の原料と製造方法の組合せによりAnnexに分類され、Annex毎に従来燃料との混合上限比率を規定。
混合比率、及び混合後のスペックがD7566の規定に合致すれば、ASTM D1655(航空機燃料の国際規格)に適合したと見なせる。(D1655燃料として流通可能)


中でも代表的な製造方法が、「FT-SPK」「HEFA」「ATJ-SPK」です。
SPK=合成パラフィンケロシン

・FT-SPK(Fischer-Tropsch:FT合成油)
木くずなどのバイオマス、都市ごみなど有機物全般を原料とします。これらを水蒸気や酸素とともに燃焼させてガス化させ、FT合成により液化してジェット燃料を製造する方法です。商業飛行にあたっては、50%までの混合が認められています。バイオマスであれば幅広く原料として用いることができるため、SAF燃料製造の有力な方法として注目されています。

・Bio-SPK/HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids:水素化植物油)
廃食油や植物油、動物脂などを原料とし、これらを高圧下で水素化分解・還元する水素化処理によって燃料化する製造方法です。商業飛行にあたっては、50%までの混合が認められています。使用設備が既存の石油精製設備の改造で済むこともあり、現時点で最も多く商業化されている技術でもあります。

・ATJ-SPK(Alcohol to JET:アルコール合成パラフィン)
イオマス糖や都市ゴミより得られるバイオイソブタノールや、都市ゴミ・工場排気ガス由来のバイオエタノールといったアルコール類を原料とします。これらを触媒によりエチレンへ転換・重合し、バイオジェット燃料化を製造します。商業飛行にあたっては、50%までの混合が認められています。大規模な生産量が見込まれるため、SAF燃料製造にあたっての有力技術として期待されている製造方法です。

原料別製造プロセス一覧



いかがでしたでしょうか?

今回は「SAF」の概要について解説してきました。次回の後編では、SAFが必要とされている背景や課題などについて見ていく予定です。



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